ドイツ在住 マルカの部屋

時にしょっぱい海外生活を楽しく乗り切るブログ

休暇の取得には感謝が必要?日独の違い

先日、とある企業の採用広報記事を読みました。内容は、長期育休を取得中の男性社員へのインタビュー記事。「多様な働き方の実現を目指す会社」だということをアピールし、応募につなげるというものです。

 

インタビュー対象の男性はとても礼儀正しい方。「ただの働きやすいホワイト企業だと思われるのは不本意。育休は会社との信頼関係なしには実現しないものだ」「育休を取らせてくれる会社に感謝しなければ」「権利を振りかざすような形で育休を取得すべきではない」と、記事中、謙虚に語る姿が印象的でした。

 

私も日本人だから、この感覚はまあ分かる。ただ一方で、ドイツで出産育児を経験し感覚がドイツ人化しかけている私には、「”ただの働きやすいホワイト企業”ではなぜダメなのだろう?」という問いも湧いてきたのでした。

 

男性育休が日本より深く社会に浸透しているここドイツでは、多くの人々が「育休は当然の権利」と捉えています。だから、彼らに「会社への感謝」みたいな気持ちはおそらくないし、育休は「会社との信頼関係があって初めて成立する」といった類のものでもない。日本人に、お盆休みを取らせてくれる会社に感謝する人はあまりいませんよね。それと似たような感覚かな。おそらく会社側も、感謝というものは求めてない。

 

夫も息子の誕生時には2ヶ月間の育休を取得したのですが、会社に対し感謝の気持ちを抱いたかを尋ねてみると、「この間、僕は給料を受け取っていないのに、”会社に感謝”ってどういうこと?」とポカン。

 

「不在を認めてくれたことに対する感謝は?」との問いかけには、「僕は会社の所有物ではないのだし、社会には子どもが必要なのだから、それを認めるのは企業の義務じゃないか」との回答。

 

なんつーか、もう根本的なマインドが我々日本人とは全然違うのよね…。

 

また、とあるドイツ人の友人が、先日「人生に休暇が必要だ」と1年間の休暇を取りまして。休暇の目的は、育児でも介護でもなく、「世界一周旅行」。日本では到底認められない理由だよね…(笑)。

 

「それ、よく会社が認めてくれたね!どうやって交渉したの?」と尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

 

「本当は、一度退職しても良いなと思ってたんだよね。でも、上司が会議の最中に『思うように人を採用できなくて困ってる』と口を滑らせてね。それを聞いて、今なら一年間の休暇を取りたいと言っても僕を解雇できないだろうと思ったんだ。」

 

こうして彼は見事に1年間の休暇を勝ち取ってしまったのです。

 

日本だったら、会社がピンチの時には社員も協力するのが当たり前な雰囲気がある。が、ドイツ人は会社に隙あらば突く!(笑)

 

日本は、「家族」とまでは言わないまでも、労使は協力関係にあるのが美しいという価値観があると思う。しかし、友人の行動を見ていても、街のあちこちで賃上げを求めてストライキをしている労働者たちを見ていても、ドイツでは労使というのは基本的に対立関係にあるものなのだと感じます。

 

どちらが良いかは決められないけれど、真の意味での「育休の浸透」や「多様な働き方」というのは、ドイツくらいドライな労使関係がベースにないと、なかなか進まないものかもしれない。

 

日独の労使関係の違いを感じたインタビュー記事でした。